ありんこちゃんの愛とバレエ
その3〜出会い
 さて、一晩あけたらありんこちゃんはレンタルビデオ屋のねーちゃんです。サービス業は基本的に自分に向いてないなと思うけれども、映画好きのお客さんと映画のお話をするのは楽しい。
 23時を過ぎたころでしょうか。
自動ドアのガラス越しに、わんこを抱いた男性客と視線が合いました。
 その瞬間、ありんこちゃんに、頭っからバケツの水を浴びたような衝撃が走りました。
「この人は!」
なんて素敵な人なんでしょう!
信じられないことに、一目惚れです。
目許がキリリとしていて、ちょっとラテン系の入ったハンサムさん。ありんこちゃんより痩せてるように見えますが、筋肉はどうかしら。脱がしてみたい。触ってみたい。齧ってみたい。バレエも垂れ目もどうでもいいから、この人とお近づきになりたい。
返却処理をしている間も彼から目を離せず、呆然と「ありがとうございました」を言いました。私はきっとアホ面していたことでしょう。
 その時、母が裏から出てきて言いました。
「あら、TYさん、こんばんわ。この子がこないだ話していた娘です」 母は娘自慢が好きです。誰にでも私の話をします。
よせやい、照れるじゃねえか。こんなかっちょいい人に。ああ、でもこれがきっかけでお話しできるかも…。
続けて母は私に向かって言いました。
「彼が例のバレエの人、直接お話聞いたら?」

…は?

確か母がそっくりと言っていたのは

>垂れ目で笑い皺のキュートなアジア系

笑い顔がキュートなアジア系俳優さんアイコン

目の前にいるのは

>目許がキリリとしていて、ちょっとラテン系

TYさんの図

 全っ然、似てないぢゃーん!!

てゆーか、さっきの、バレエどうでもいいってのはナシ。
母に突っ込みを入れたいのをぐっと堪え、お話してみることに。

 …しかし、はて、何を喋れば良いんだ?
私がバレエ教室を探しているという、真意は伝わっている筈。その他に聞きたいことといえば、色々揃えたら幾らくらいかかるか、とかお月謝はどの位が目安かとか、体がやっこくなるのにはどの位かかるかとか、そんなもん、わざわざプロに聞かんでも、という下世話なことばかりです。そもそもプロに初心者向けのバレエ教室を聞くこと事体、間違っているって言われちゃそれまでだけどさ。
 TYさんも、ちょっと戸惑ったような面持ちで、片手にわんこを抱え、空いた手の指先で煙草を弄びながら立ってらっさいます。ダンサーって健康オタクなイメージがあるけど、この人は煙草吸うんだなあ。しかも、この様子からいくと歩き煙草もするようだ。いかんね。所在なさ気なわんこの動きも気になるところ。お見合いの時に「では、あとは若い人達で…」と2人きりにされた時の心境が理解できます。

「…。」
言葉に詰まっていると、彼が口を切りました。
「モダンか何か、やってたんですか?」

カウンター回りにいるTYさんとありママとありんこちゃんの図


 がっくり…やっぱり…。
 そうね、そう思うよね。
案の定、母の発言は、彼に間違った見解を与えておりました。
体中から力が抜けていきます。
半ば泣きたいような気持ちで、半ばヤケになって、先に述べた下世話なことを聞いたような気がします。
「気がする」というのは、頭が真っ白になってしまって何喋ったか全然記憶にないからさ。
覚えているのは、近い内にチラシを持って来てくれると約束して去ってゆく彼の後ろ姿を見つめ、立ち尽くしていたことだけ。

このまま知らん顔してばっくれちまえという気持ちと、彼と仲良くなりたいという煩悩とで葛藤中。

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